大学とは何か。どんな価値を持つのか、進むべき道はどこにあるか。
大学人や政治家、官僚、財界人らに大学への本音を聞く。
 

大学とは何か。どんな価値を持つのか、進むべき道はどこにあるか。大学人や政治家、官僚、財界人らに大学への本音を聞く。  

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

“イノベーションは
大学改革から”

—内閣官房 イノベーション総括官
赤石浩一氏

 

 
 
 
 
 
 

「文部科学教育通信」連載
異見交論 第3回 

文・松本 美奈 ジャーナリスト、一般社団法人Qラボ代表理事
写真・岡 友香(Tokyo Photo Works.)

赤石浩一(あかいし・こういち)
1961年東京生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省入省、経済産業省通商政策局米州課長、日本機械輸出組合ブラッセル事務所長、内閣官房政策統括官などを経て現職。

日本を世界で最もイノベーションに適した国にする――安倍政権はそう繰り返している。成否のカギを握るのが大学改革のようだ。イノベーション戦略を担う内閣官房イノベーション総括官の赤石浩一氏は言う。「AI教育認定」で教育の中身を変え、国立大学に学内の規律が及ばない「出島」を創る……と。なぜ官邸と内閣官房が国立大学にここまで直接手を入れるのか。

「大学改革」が内閣官房から出てくる理由

―素人といえば、なぜ大学改革が内閣官房から出てくるのか。
赤石 文科省は2013年、第二次安倍内閣が発足した当初は動いていたが、どんどんスピードがなくなっていった。出てくる政策も中身が乏しい。若手研究者の雇用については当初から課題で、時間がかかるほど、問題が深刻化していく。だから何度も「しっかりやってくれ」とお願いしていた。だが、出てくる文書は「若手研究者の雇用を安定させる」「産学連携を進める」だけだ。そのために何をするかが一向に見えない。「金の切れ目が縁の切れ目」という補助事業を繰り返している。これではダメだと、2019年3月にもう一度持ってきてもらったら、やはり同じことばかり。本気度が見えない。
仕方なく、官邸のしかるべき人に謝りに行った。そうしたら「やはり文科省と大学では無理なのかな」と言われてしまった……。そんなこともあり、こちらでまとめることになったのだ。
 
―それが「大学・国研の外部化法人制度(仮称)」か。文理融合を前提としたAI教育認定制度という中身の話だけでなく、組織も変えようとしている。
赤石 若手の雇用を増やしたいけれど、高齢の研究者を辞めさせることができない、だから若手研究者を雇えないのなら、大学の外で雇うしかない。そこで外部化法人、つまり「出島」を創るという発想になった。企業が大学にお金を入れると不透明でわからないというのなら、別のところに入れるしかないし、優秀な先生の給料をあげられないのなら、別にルールを設けるしかない。
 

 
 
―これまでも拠点整備事業で工夫していたようだが。
赤石 「拠点」は大学の「一部」に過ぎず、大学の規律に合わせて横並びを免れなかった。間接経費は他と変わらないし、施設利用料収入もほとんど取れない。大学改革と言いながら、この有様だ。だが、これは大学だけの問題ではなく、組織全てに通じるのではないだろうか。
 
―なるほど。だから海外の大学ですでに取り組みが始まっていたということか。
赤石 スタンフォード大学も、ルーベン大学も、同様の課題を解決するために出島を創った。米国連邦政府は研究所の運営を大学や企業に委託した。金だけ出して、運営は外出しする。ドラスティックな改革は大学内部では無理なので、外に組織を出そうじゃないか。それが今回、大学改革につながる一つのメッセージだ。

赤石 物理的な改革と並んで重要なのは、ガバナンス改革だ。これは6月に閣議決定された「骨太の方針」にも書かれていた。方向性は全く同じだ。大学人は「大学は自分のものだ」と思っている。これが大きな誤りだ。多くのステークホルダーが周りにいて、大学がどうなるかによって多大な影響を受ける。ステークホルダーが大学をガバナンスできるようにしようというのが、改革の狙いだ。政府は国民が投票を通してガバナンスする。企業のステークホルダーは従業員、株主、債権者もいて、情報をきちんと公開することでガバナンスができる。大学のガバナンスはトランスペアレンス(透明性)とアカウンタビリティ(説明責任)。なのに、そういう認識が全く大学にない。国立大学協会のガバナンスコードはステークホルダーなんて全く考えていない。だから全面的な見直しが必要になり、内閣府、文科省も交えて作り直すことになっている。
 
 

小さい、弱い、遅い

 
―統合イノベーション戦略の中心となっている大学がそういう評価だとすると……。難問が山積している。
赤石 だが、日本の基礎研究は強い。世界から注目を集めていることに変わりはない。日本が認識していないだけだ。量子コンピューターを作っているIBMは、日本に注目している。高い材料技術、研究環境の徹底的な管理ができるからだ。「日本と一緒に量子コンピューターを作りたい」と話していた。
 
―諦めたものでもない、ということか。
赤石 日本のイノベーションは、遅い、金額が少ない、弱い。だがいいものは持っていて、方向性も間違っていない。いい例も出つつある。そこで産業界の関与を強くして、お金をつぎ込んでもらい、大学の持つ様々なシーズを社会に向けてもらう。格段に強化したいのだ。産業界も大学の批判しかしなかったのが変わりつつある。例えばダイキンは、会長がいくらでも出すと言っている。孫さんも大学さえ受け取れるのならいくらでも出したいと。今がチャンスだ。
大学はビジョンを示して社会に貢献する。産業界と密に連携して、人も金も出入りできる柔軟な態勢にする。それがイノベーティブな社会であり、イノベーティブな大学なのだ。
 
大学教育は変わらざるを得ない。
赤石 これからの社会で、東京大学法学部卒に意味はあるのか。それよりはこういうプログラムでこういうことができるようになった、と言える方が重要だ。そうした力を客観的に評価できる仕掛け、そういう場を提供できる大学が、これからの世界のトレンドになっていくのではないだろうか。雇う側にとっては、「学位」よりも役に立つはずだ。
 
―役に立つかどうかを見極めるためにも、大学は常に社会を見ていなければならない。
赤石 そうだ。そこで認定制度が意味を持つ。認定することに意味があるのではなく、大学に気付いてもらうことにこそ意味がある。社会が大きく変わっていることを。この認定制度が保証するのは学位ではないけれど、認定を取った人はちゃんと社会で役立ちます、という証明になる。そういうことを大学自体に考えてほしい。
 
またも、大学が考えていないから、ここで考えている、というわけか。
赤石 そうだ。社会がAI人材を求めているのに、大学が出さない。だからここで出す。のんびりしていたら、日本は沈没してしまう。
 

 
 

この記事は「文部科学 教育通信 No.475 2020年1月13日号」に掲載しています。

 

ひとこと

AIという分野の限定ではあるが、大学教育を認定する制度が作られる。イノベーションを起こしやすくするため、組織改革もする。時代の流れに沿った動きだろう。気にかかるのは大学の姿勢だ。抵抗しているようにも、議論を求めているようにも見えない。過去にはさんざん「大学の自治」と言ってきたのに……。仮にこのまま、大学用の学習指導要領ができたらどうするのか。透けて見えるのは、現状への危機感の希薄さだ。
「やはり文科省と大学では無理なのかな」。官邸の「しかるべき人」が口にしたという言葉が重くのしかかる。(奈)
 

まつもと・みな

ジャーナリスト、一般社団法人Qラボ代表理事。上智大学特任教授、帝京大学客員教授、実践女子大学学長特別顧問。元読売新聞記者。著書に『異見交論崖っぷちの大学を語る』(事業構想大学院大学出版部)、『特別の教科 道徳Q&A』(共著、ミネルヴァ書房)など。
   

赤石浩一(あかいし・こういち)
1961年東京生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省入省、経済産業省通商政策局米州課長、日本機械輸出組合ブラッセル事務所長、内閣官房政策統括官などを経て現職。