大学とは何か。どんな価値を持つのか、進むべき道はどこにあるか。
大学人や政治家、官僚、財界人らに大学への本音を聞く。
 

大学とは何か。どんな価値を持つのか、進むべき道はどこにあるか。大学人や政治家、官僚、財界人らに大学への本音を聞く。  

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

“イノベーションは
大学改革から”

—内閣官房 イノベーション総括官
赤石浩一氏

 

 
 
 
 
 
 

「文部科学教育通信」連載
異見交論 第3回 

文・松本 美奈 ジャーナリスト、一般社団法人Qラボ代表理事
写真・岡 友香(Tokyo Photo Works.)

赤石浩一(あかいし・こういち)
1961年東京生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省入省、経済産業省通商政策局米州課長、日本機械輸出組合ブラッセル事務所長、内閣官房政策統括官などを経て現職。

日本を世界で最もイノベーションに適した国にする――安倍政権はそう繰り返している。成否のカギを握るのが大学改革のようだ。イノベーション戦略を担う内閣官房イノベーション総括官の赤石浩一氏は言う。「AI教育認定」で教育の中身を変え、国立大学に学内の規律が及ばない「出島」を創る……と。なぜ官邸と内閣官房が国立大学にここまで直接手を入れるのか。

 「イノベーション戦略」達成状況は50点

 
―2018年6月、「統合イノベーション戦略注2」を閣議決定した。大学改革も織り込まれていたこの戦略を総括してほしい。現状の達成状況を点数で表現すると。
赤石 まだまだ50点。枠を作ってみんながそちらに走り出したということを評価した。落第ではない程度だ。安倍政権が2013年に作った日本再興戦略から七年経ち、株価、失業率、観光客増も目標通り、あるいは目標を超えるところにまできた。不可能と思われてきたことを、この政権はやってきた。今回も官邸が気合を入れて進めているので、イノベーションに向けて大きく動くはずだ。
 

―自民党の甘利明氏は「日本をイノベーションに最適の国にする」と話していた。そこがゴールか。
赤石 そうだ。統合イノベーション戦略は、Society5.0とは何かを明らかにした。「大学を中心にした知の創造」を実装する国際戦略だ。官邸のリーダーシップで枠組みづくりが進んだ。データ連携では、IT本部とCSTIが一体となって情報銀行、情報取引市場を進めている。大学改革は、文部科学省の協力もあって、国立大学第四期中期計画についての議論も進みつつある。社会実装のところで言えば、創業が大きい。あの頃は「ユニコーンを増やすなんて日本では無理」と言われたが、1,000億円以上の価値がある企業が数社も出てきている。だから2019年6月、スタートアップ支援に巨額の資金を拠出している「グーグルキャンパス」が日本進出を表明した。
 
―統合イノベーション戦略の成果といってもいいのか。
赤石 それだけではないだろう。だが私はしつこい人間なので、政策としてあげたものは絶対に実現させる。「統合イノベーション戦略2019」にも盛り込んだ。
2019年10月のG20で、グローバルなスマートシティアライアンス(連合)推進で合意した。それに先立つ7月には、約500社集まり、「官民スマートシティ連携」が発足した。日本の技術をここから海外に出していく。10月に菅官房長官が経済協力インフラ会議を開いて、日本中で力を合わせ、スマートシティーを海外に出していこうと話していた。ビッグビジネスになる。サウジが新しい町づくりをする。ジャカルタ、カイロは首都移転する。こちらも兆円単位の規模だ。マニラも米軍基地の跡地に都市機能を作る。われわれはプラットフォームを世界で統一して、水やエネルギーの管理、防災など日本の優れた技術を輸出していく。
 
 

AI教育認定制度

 
―その根底にあるのが教育改革か。AI戦略にも明記されていた。
赤石 小中高校で情報教育を進める。今回の補正予算でもこれまでとは桁の違う予算が投入されるはずだ。文科省と総務省、経産省が連携し、IT本部も入れて5年計画ぐらいで子どもの教育を変えていく。
問題はやはり大学だ。AIの議論では、絶えず大学に対する批判が続いた。「社会を見ていない」「動きが遅い」などと手厳しい。そこで「認定制度」導入が決まった。一定の水準を満たすAI教育をしている大学を「認定」する制度だ。履修した学生は産業界も高い賃金で雇う。AI人材に「高い賃金」を出してほしいと産業界に求めたら、NECが1,000万円と発表したことを皮切りに、富士通が4,000万円、NTTが1億円。まるでセリのようになった。
 
―誰が基準を作り、認定するのか。
赤石 文科省、内閣府、産業界で基準を作り、認定していくことになるだろう。国立大学だけでなく、私立、公立大学も対象になる。文理融合は大前提だ。文理の壁を外さなければならない。
 
―認定制度の認定基準はいつ出てくるのか。
赤石 年度内には一定のものができるだろう。大学が動き出しているようだ。今日(12月3日)もある国立大学が腹案を見せにきた。大学は動かざるを得ない。認定を得ないと、ちゃんとした給料で雇ってもらえないのだから。卒業後を保証できなければ、学生も集まらない。
 
―先ほどの「基礎から実装を一組織、しかもスピーディーに」とは、大学の役割、あり方の変化も求めているのか。
赤石 大学には、意識改革を求めたい。大学は基礎研究だけという話ではない。実装まで一気通貫で進め、儲けたお金が大学に返り、基礎研究に充てられるエコシステムが必要だ。
創業に力点を置いているのは、大学の教育体系を変えてほしいからだ。そもそも大学で創業教育をしているところはほとんどない。
 
―東大などいくつかでアントレプレナー教育をやっているようだが。
赤石 カリキュラムとして体系的に教育している大学は少なくて、サークルや先生の趣味でやっているなど課外での活動が多い。天津大学や北京大学は、創業プログラムを体系的に設けている。アメリカでは創業の教え方がテンプレートになっており、ビジネスプランを作らせて、現場で実際に挑戦もさせているようだ。実践的な創業者を育てているということだ。
 
―現場と密にやり取りできる先生が大学にいるということか。
赤石 それが強みだ。現場にすぐに電話して、うちの学生を使ってくれよと。そこで学生を育てていく。いずれにしても重要なことは、文理融合だ。社会全体を見据えたムーンショットが世界のトレントだ。例えばゴミゼロというムーンショットを起こすとする。建物を壊したらゴミになるが、がれきを組み直すなら、次に使えるようにするには、壊し方と同時に作り方も変えなくてはならない。壊すときのことを逆算して考えて作る。バックキャスティングデザイン。そこで力を発揮するのが、人文だ。だから、科学技術基本法の改正が必要だ。
 
―科学技術基本法は人文科学を除外してきた。そこを変えるのか。

赤石
 そうだ。この国会にかける。課題発見型の人文を日本でも育ててもらいたいのだ。枕草子は結構だが、経済や法律すら社会に役立とうとしていない学問になっている。2019年のノーベル経済学賞は、世界の貧困削減に実証実験を用いた研究だった。そういう社会の課題を解決する人文を日本でも育ててほしい。
 
 
赤石 ニーズはたくさんある。では、自動走行、ドローン規制について考えている人文学者がどれほどいるのか。AIで雇用が破壊された時、社会はどう雇用を守るべきか。課題は多い。役に立つ人文をもっと増やしたい。「日本のシンクタンクは政府」とよく言われる。法律も経済政策も、われわれ素人官僚が作っている。それに対して、分厚い人文学者の層がどんどんわれわれを突き上げてくれることを切に願っている。当然、大学改革にも結びついていく。
完全に文理融合で、単に先生の話を聴くのではなく、社会の課題を解決していく―これが理想の大学だ。それが、これからの大学の授業ではないだろうか。
 
―先ほどのAI倫理にしても、国が作るものなのか疑問が残る。
赤石 そうだ。大学がリードすべき議論だ。アメリカではAIが人を殺したらどうするのかと哲学者が技術者をリードする議論をしている。日本にそういう哲学者はいない。だから、われわれ素人官僚が引っ張っている。全くおかしな話だ。
 

<注>
2 統合イノベーション戦略(2018) 基礎研究から社会実装、国際展開までの「一気通貫のイノベーション戦略」をまとめている。知の源泉構築→大学や産業界が新たな知を創造→創業や政府事業に実装→国内外に展開→基礎研究に資金を循環――といったイノベーション・エコシステムを提言している。

  

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赤石浩一(あかいし・こういち)
1961年東京生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省入省、経済産業省通商政策局米州課長、日本機械輸出組合ブラッセル事務所長、内閣官房政策統括官などを経て現職。